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『ヤマセミの毛鉤』 ショートミステリー

私は釣りが好きで岐阜県の川はほとんどがホームグラウンドだと思っている
その中でも国道157号で福井県の川に向かう事も多くなっていた・・・・・

先日も車を走らせて国道157号を北上し、温見峠まで来た頃に無性に喉が渇き自販機を探したがこんな山の中ではなかなか見つからなかった

しばらく走ると右前方に明かりが見えたので「あった」と喜び車を止めた
車から降りると古臭い飲み物の種類も少ない自販機があったが電気が付いているから使えるのだろうとお金を入れてみた・・・・
ボタンを押したが缶コーヒーは出て来なかった
「やっぱり故障かー」と車に戻りかけると自販機の奥に明かりが付いた
「あれ?」
今まで何度も来ていた道だがこんな場所に家があるとは全く気が付かなかった・・・・・
「出ないかね?」と声がしてお爺さんが近寄って来た
「お金は入れたんたけど出ませんでした」と私が言うと「店の中にあるものを飲むといい」と私を家の中に入れてくれた
気が付かなかったがここは釣具屋だった
(どうして今まで気が付かなかったんだろう?)
私は不思議だったがあまり気に留めないで缶コーヒーを受け取って飲み始めた
「釣りかね?」
そう聞いたお爺さんに私が「はい、フライフィッシングです」と応えると奥から小さな箱を持って来た
「毛鉤ならこれを使ってみるといい」と私に3個の毛鉤をくれた
その毛鉤はグリズリーと呼ばれるプリムス系の鶏の羽に似ていたが少し違うようにも思えた・・・・・
「それはヤマセミの羽で私が作った」と笑いながら指を指していた

私はお礼を言い車に戻ると目的の場所まで少しスピードを出した・・・・・

辺りが薄明るくなる頃に川に着き、釣りの準備を始めた
いつもの毛鉤をつけて何度もキャストをするのだが今日は魚の反応が無くてなかなかヒットしてくれない
私はさっき頂いた毛鉤と付け替えて釣ってみる事にした・・・・・
毛鉤が川面に落ちると同時に型の良い岩魚がヒットした
それからもポイントポイントで岩魚やアマゴが毛鉤に食いついて来た
私は嬉しくて釣ってはリリースをしながら昼過ぎまで釣りを楽しんだ

そして帰りに毛鉤の御礼をしたいと思って釣具屋に寄ろうと思っていた・・・・・
峠の近くで車を止め釣具屋を探したがなかなか見つからなかった
「ここの近くだったなー?」
大きな杉の木が釣具屋の前にあったのに今、杉の前にいるのだが前には何も無かった
車から降りてしばらく辺りを歩いてみたが自販機もなかった・・・・・

大杉を仰いで「おかしいなー?」ともう一度振り返り草に隠れていた石碑を見つけ、草をどけて見た私は驚いてしまった・・・・・
『釣り好きの峠釣具店主人○○ここに眠る』
建ったのは今から10年ほど前の事のようだ・・・・・

釣り好きな釣具屋のお爺さんが釣りの下手な私に波長が合ったのか何か言いたかったのかなと思い石碑の周りを掃除して野に咲いていた花しか無かったが飾ることにした・・・・・

ヤマセミも最近は見られなくなり川にも釣り人が残したゴミが増えている
お爺さんは私にそうした事を言いたかったのかも知れないと思い、自然を汚さない気持ちを強く持って行動したいと心の中で決心した・・・・・

家に戻り毛鉤ケースを見たらあの毛鉤は無くなっていた・・・・・
by shizenkaze | 2009-08-07 22:12 | ショートストーリー | Comments(4)